elfの全盛期と最近のアダルトゲーム事情
■elf
先日、elfから「麻呂の患者はガテン系3 完結編」が満を持して発売されました。
内容自体は流石老舗だけはあり、業界でもトップクラスの2Dアニメーションや、土天冥海氏独特の文章とシナリオで完結編と銘打つに納得の出来です。途中に入る謎のバトルパートは多少面倒でしたが、その無意味なゲーム要素もまたelfっぽさの一つと思えば許容範囲です。
さて、内容は各々プレイしてもらうとして、本題はそのelfが実質解散状態にあるということです。一応公式からアナウンスはないですが、色々と噂と心配されていた所に、先述した麻呂3のエンディングで歴代のelfゲー発売日の年表と感謝の文字が表示され、解散でなくとも暫くは次作の製作にすらあたれない状態なのが推察できます。
「麻呂の患者はガテン系3 完結編」、これがelfの最終作である事、他社にスタッフ取られて少数で製作した事、トドメにエンドロールで歴代の名作elfゲーが流れてきて胸が苦しくなる……抜きゲでこんな哀しい気持ちになったの初めてだ…… pic.twitter.com/5DuLPPrdlq
— にゃるら (@nyalra) 2015, 10月 15
この年表からelfという会社の栄光の歴史と紆余曲折の跡が窺えて涙が溢れてきますね。
では、年表を雑に時代分けしていきましょう。
この時代はelfの歴史というより初代社長である蛭田氏の歴史ですね。
他ゲーム会社でシナリオ執筆していた蛭田氏は、「夜勤病棟」などでお馴染みのミンク社長になる阿比留氏や金尾あつし氏などと出会い、狭いアパートで生命削ってアダルトゲーム製作を開始します。この辺は調べれば色々と語られてますので、こちらでは省きます。
処女作である「ドキドキシャッターチャンス!!」は残念ながら鳴かず飛ばずの売上で、その後も挫けず戦いナンパゲーの原点と呼ばれた「ぴんきぃ・ぽんきぃ」やアダルトゲームでのRPGブームの火付け役となった「ドラゴンナイト」などが登場しています。かつてのelfと人気を二分したアリスソフトの「ランスシリーズ」はドラゴンナイトの2ヶ月前に登場しています。数奇な運命ですね。
乗りに乗ってきたelfに、ある意味elfの創造と破壊の象徴となった「同級生」シリーズが発売されます。
女の子をナンパしまくれ!
「同級生」によって基本はナンパという不純な行動からとはいえ、アダルトゲームに恋愛や好感度という概念を導入し、業界に震撼を与えます。
「同級生 原画集」に依ると「元は40日間で50人の女の子をナンパしてHするゲームの予定」でしたが、「原画である竹井氏のイラストに惚れてしまい、ユーザーをやきもきさせるようキャラを絞って恋愛の要素を強くした」と解説されてますね。
アダルトゲームはただ女の子とHしていくだけではないんだぞ、と時代が変わった瞬間です。切っ掛けは美少女イラストですし、いつの時代も可憐な女の子に引っ張られて男は変わっていくんですね。いい話です。丁度この頃は沙織事件で規制が強まった時代でもありますし、成るべくして成ったという見方もできます。
他にも「河原崎家の一族」や「野々村病院の人々」なども有名作ですが、この時代のelfの名作に一々触れていたら枚挙に暇がないので割愛します。同級生効果で恋愛ばかり考えてるのがイヤになっている時期ですね。
されど世間が求めたのは恋愛ゲームの続編、同級生2も勿論大ヒット。節税しないといけない程の収入ガッポリで、同級生のヒロインをモチーフにしたオナホールなども作っちゃたりでノリまくりです。
その後も、僕が「和姦なんて女子供のすること」と性癖や倫理観を歪める原因となった「◯作」シリーズの第一作である「遺作」、
冒頭に登場した「麻呂シリーズ」の原画も務めることになる門井亜矢氏を原画にした「下級生」、
余談ですけど、僕は下級生の中で「神山みこ」ちゃんが一番好みなのですが、無防備にパンチラし過ぎてクラスメイトのオカズにされたり、デートという概念をよくわからず簡単に承諾したりと、今思うとかなり姫系のキャラ要素が高いなぁと思ったり……。復刻版なら今の環境でもプレイできますので是非。
この子好きなのオタクっぽいよね
「DESIRE」や「EVE burst error」など複数のシナリオが交差していくシステムを作り上げた「剣乃ゆきひろ氏」を取締役として迎え、「WHITE ALBUM2」が登場するまで何年間も批評空間ランキングトップを突っ走っていた「この世の果ててで恋を唄う少女YU-NO」、
YU-NOの年には、アリスソフトからヒットし過ぎて逆に色々と悩みの種となった「鬼畜王ランス」が発売されています。本当に運命的な巡り合わせだ。
この辺りは移植ラッシュで儲けまくっていたので、セガサターンなどでプレイ可能です。別個で感想記事書きたいくらいですが割愛。
他にも「ワーズ・ワース(年表の方が誤字っている)」「臭作」「リフレインブルー」「鬼作」などもelfを語るには外せない作品ですがキリがないので泣く泣く省略します。
兎に角この時代のelfは強い。移植でボロ儲けした時代ですね。所謂全盛期です。
さて、ここ辺りがelfの転換期。
elf最後の良作と呼ばれた「勝 あしたの雪之丞2」や、あかほりさとる氏が手がけた「らいむいろ戦奇譚」などが出てきますが、全盛期を過ぎて時代についていけなくなったelfはどうも落ち目。
雪之丞2は個人的には妹ゲーに名を残す程の名作だと評価してますが。実妹な上に性行為がないプラトニックな関係で終わるのがいい……。かわいいし。
シナリオもいいよ!
対するアリスソフトは「大悪司」などで鬼畜王スランプからも抜け出し、「超先生」関係でゴタゴタしたLeafも現在続編が好評発売中な「うたわれるもの」、他にも多くのアダルトゲーム会社が名乗りを上げて、古臭いシステムのまま時代に取り残されたelfは段々と追い込まれていきます。
因みに初めて「ミカグラ学園組曲」というタイトルを聞いた時、「御神楽少女探偵団」の事かと勘違いして焦りました。実はプレイステーションストアからプレイできたりします。
さて古臭さは消えないわスタッフは減っていくわで落ち目なelfは逆転の秘策として、今まで何度も出す出す詐欺を繰り返した「下級生2」を満を持して世に送り出します。
初代下級生でも原画を務めた「門井亜矢氏」の描くキュートなキャラは新参オタクからも注目され、システムも昔の面倒くさいままで、懐古オタクも一本釣り! こうしてelfはまた新たにアダルトゲームを引っ張っていく存在として返り咲く……、
ことはなかった!
そう、あろうことか下級生2は、アダルトゲーム史の中でもかなり話題になったあの「たまきん事件」を巻き起こしたのだ。
事の次第は上に貼ったメインヒロインの彼女、「紫門たまき」が非処女という事実が発覚し、ブチ切れたユーザーがディスクを割ってインターネットに貼り付けた事から始まる。
こんな可愛い顔して非処女……。勿論繊細なアダルトゲームユーザーにとってそれだけでも赦せない、ましてやメインヒロインとして有り得ない事なのだが、なんと彼女のシナリオでは非処女なだけでなく、二股状態で主人公と彼氏を天秤にかける。幼馴染キャラにあるまじき展開に、合体事故とまで言われた。個人的に「こっちは処女だよ」とアナルセックスに誘うシチュは良かったなので満足ですけど。
たまきん事件については当時ブチ切れたユーザーの感想や、何ならニコニコ大百科ですら載ってるレベルの話なので、詳しくはそちらを参照されたい。
関係ないけど僕は七瀬ちゃんが好きです。
更に余談ですが、門井亜矢氏の画集はイラストが可愛いのもあるのですが、
氏が毎号描いていた「P-mate」の表紙が全て載っていて、資料性も高くお気に入りの一冊です。当時流行っていたゲームも丸わかり!
惜しむらくは、奇しくも「下級生2」が発売する数カ月前に廃刊したので、見出しに下級生2のタイトルが載る事はなかった事ですが……。
因みに最後に見出しを飾ったのは「大槍葦人氏」の「Quartet!!」。名作です。
このイラストが一番好きです。99年に描かれたモノなのに、現代と比べても謙遜ない可愛らしさと個性が光る。
閑話休題。「下級生2」の失敗がトドメとなったelfは暫く迷走を続けた後、「媚肉の香り~ネトリネトラレヤリヤラレ~」というハードな寝取られゲーを引っさげて業界へ戻ってきます。
この不穏な表情と、純愛なんて知るか! という気概が感じられるタイトルが良いですね。
路線を寝取られに絞ったelfは地味ながらも抜きゲメーカーとして中々のヒット。しかし時は既に純愛紙芝居ゲーの時代。知る人ぞ知る名作としてひっそり名を轟かせます。
そこで多少取り戻したままの勢いに乗って出したのが、この「ボクの彼女はガテン系/彼女がした事、僕がされた事/巨乳妻完全捕獲計画/ボクの妻がアイツに寝取られました」。
これまた印象的なタイトルと、「門井亜矢氏」を再び起用し、どこか「たまき」を彷彿させるキャラを引っさげ話題に。
鬱ゲー扱いされる程の寝取られ要素と滑らかに動くHシーンは好評価を得ました。
こんな可愛い土方がいるかよ。
売上は好評でシリーズ化を果たし、冒頭の麻呂シリーズの第一作である「麻呂の患者はガテン系」がリリース。
当初は「なんで麻呂!?」と動揺したものですが、何処と無く憎めないキャラ付や話題性、またひょうきんな顔で寝取られ要素を薄めるなど、実はかなり計算されていた跡が見えます。考えすぎかも知れません。
寝取られに特化し一命は取り留めたモノの、スタッフはどんどん減っていき、トドメに新規メーカーである「シルキーズプラス」にメインスタッフがどんどん引き抜かれる始末。末期では三人体制で製作中という広告が同情を誘いました。
全盛期は金に物を言わせて数多くのスタッフを他社から引きぬいた訳ですから、ある意味皮肉が効いた結末ですね。過去作の復刻などでも小金は入ったでしょうし、お金はあれど人は集まらなかったのでしょう……。
当時は東のエルフ、西のアリスと言われたアリスソフト側は、新人の育成にも励み堅実に運営していますし、この辺りでも差がでたのでしょう。ランスが完結した時くらいにアリスソフトについても纏めてみたいですね。
以上が簡単に説明したelf27年間の歴史でした。
■現代のアダルトゲーム事情
全盛期はアダルトゲームといえばelfという時代だった。ビルまで建てて、スクエアにも並ぶ売上だったとも言われている……。
そんなelfまで沈んでしまい、アダルトゲームはこのまま死を待つのみなのか……。
先月、アダルトゲーム会社の広報の方とお会いした時も、色々と話を聞いた所、矢張り現状は厳しいと。
大きな原因の一つにソーシャルゲームの流行。他にも個人で作った低価格帯同人ゲームがフルプライスと謙遜ない出来でDLサイトに並んでいること、アニメなどと違って話題をすぐに共有できないライブ感の足りなさ。一昔前とはオタクカルチャーの事情が変化した話を教えてくれました。後、今の時代の天下を取った「Navel」って例えるなら呉ですよねって話をしてみましたが、僕だけのイメージなので伝わらなかった気もします。
寂しいものですが、どちらかと言えば一時期のアダルトゲームがオタクカルチャーのメインだった時代のほうが狂ってる気もしますし、今のひっそりと知る人ぞ知る業界である方が正しいという見方もできますが。
まだまだ問題は山積みです。
では、最近のアダルトゲームはつまらないのか?
これは一番良く言われるフレーズです。「最近のゲームはつまらない」「似たような作品だらけだ」と。
確かに泣きゲですら飽きられ気味の現代では、ストーリー性を徹底的に排除し、出来る限り繊細なオタク達を刺激しないよう、かわいいに特化した作品がシェアを独占しているのは事実でしょう。
しかし、だからと言って最近のアダルトゲームの内容まで落ち込んでいるとは僕には思えません。
譬えば先述したelfスタッフを多数引き抜いて設立された「シルキーズプラス」の処女作である「なないろリンカネーション」。
「すめらぎ琥珀氏」の美麗なイラストが目を惹きますが、内容もまた良さの塊。
田舎の一軒家に住むことになった主人公が、何故か自分だけ座敷童などの類が見える体質なので、流れで幽霊たちを成仏させる専門として生活していくハメになる……。と、要約すると初期の「幽☆遊☆白書」路線の話。
今の時代で「行動的な主人公」というだけでかなり魅力的。また元カノに近いヒロインが存在したりと、主人公が不自然に恋愛に非積極的でないのも好感が持てますね。
キャラはそれぞれ立っている上に、ギャグ要素も面白く、当然のようにCGは全て高水準、最後は涙なしではプレイできない感動のラスト……と、最近では珍しく文句のつけようのない良作ゲームです。ちょっと、個別ルートの展開が似たり寄ったりなのは気になりますが。あとえっちなシーン多めで抜きゲにも使えるのもポイント。
ロリババアいい……。
シルキーズプラスは広報もかなり積極的で、電気街まつりでは体験版の入ったディスクやタオルなどが入ったセットを無料で配ったりしてました。全然お金を持たず冷やかしで参加していたので、そんな僕にでも優しく紙袋を手渡ししてくれたスタッフには感謝の念しかありません。
気になった方は、是非体験版を遊んでみてください。体験版の区切りも話が一段落するので満足感高いですし、何なら体験版の時点で泣けますよ。
最近移植もされたよ!
他にもシルキーズプラスは今年の夏にも「根雪の幻影 白花荘の人々」を発売しました。
発表を見た時は今年で一番胸躍りましたね。まず、僕はこの絵師が大好きです。めちゃくちゃにえっち。立ち絵の時点で色気をこれでもかと漂わせます。
次に何と言ってもタイトル。明らかに「河原崎家の一族」意識してるじゃないですか! しかもこの時代に館モノ! さすがelfのスタッフが大量に潜んでいるだけはあります。
主人公もナヨナヨ系ではなく、かなり攻めるタイプ。どれくらい攻めているかというと、開始時点で彼女が居ます。更に、選択肢に依っては会話中突然「おっぱい見して」とセクハラ発言。このどうでもいいやり取りげできるのが何とも90年代っぽい!
話も王道館モノ。主人公カップルが泊まる旅館でどんどん怪事件が起きていく……感じ。何とも古臭いストーリー。
かわいい
彼女とイチャイチャしてると他のヒロイン登場。彼女が居る前で他のヒロインを攻略なんて……。
かわいい
できます。
初対面で理由をつけて一緒に風呂にはいろうと誘う主人公。これぞ古き良きナンパゲーのノリ。勿論この後彼女に叱られますが。
他にも色んなヒロインにセクハラしたり、食事中にパンチラ覗いたり、時には情報を引き出すためにセックスしたりと、通常のイチャラブゲーではまず有り得ないアグレッシブさを発揮。
選択肢も一昔前の面倒臭さ大発揮。会話するにも大量の分岐点があります。因みにテーブルの下にスプーンを落とすと勿論スカートの中を覗きます。
移動するのも自分で選択。意味のない選択肢も大量にあって総当り式で進んだりもするのがまた全盛期のelfらしくて……いい……。
極めつけはフローチャート図。
自分がどこで分岐したのか確認しつつ、どのエンドを目指せば良いのか解りやすく進めます。この画面がテンション上がりましたね。多種多様のエンディング! 勿論ホラー要素バリバリのバッドエンドもあったりと、流石の攻めっぷりです。
プレイ時間が短いのがネックですが、ホラーあり、エロあり、涙ありのストーリーは全盛期のelf好きからするとかなり楽しめるんじゃないでしょうか? 所々で感じるelfの意匠がまた何ともな気持ちにさせてくれます。
サスペンスでダークかつ、どこかレトロな雰囲気に包まれたゲームにピンときたら買うべきです。現時点で今年一番印象に残ったゲームですね。余り本数プレイしてませんが。
■最後に
他にもアリスソフトからはランスシリーズのリメイクもありましたし、サクラノ詩も控えています。まだまだアダルトゲーム業界は死んでません。瀕死ですけど。
紹介した二作のように挑戦的な作品も多数あります。
名作であるYU-NOのリメイクも来年発売予定です。
時代に合わせるため主人公の顔が前髪で隠れてないのは仕方ないとはいえ、神奈と澪から明らかにオーラが減った気がして心配です。
ドット絵いいよね……。
思い入れ深い作品のリメイクなので成功して欲しいですね。VITA持ってないのでプレイできませんけど。
閑話休題。売上や話題性がどうと嘆くより、惜しくも時代について行けなかったelfの分まで、今の時代のアダルトゲームを漁ってみても良いと思います。
しかし「Leaf」は「アクアプラス」の方が馴染むくらいに一般ゲーを作り、「ニトロプラス」はアニメなどの企画屋、「key」はアニメや一般向けがメイン、「age」は「マブラヴ」の派生を作り続ける等、有名メーカー達がアダルトゲームとは別の道を歩んでいるのも事実です。この穴が開いた分は新規メーカーやユーザーが埋めていかねばなりません。
僕自身、金銭的にも時間的にも昔と違ってアダルトゲームをプレイする余裕は減ってきましたが、それでもフォロワーと一緒に面白い意欲作など見つけていけたらと。
オマケですが、前にこの記事で紹介した「エロゲー文化研究概論」は名著ですし、今回の記事作成にあたり色々と参考にしたので、もっとアダルトゲームに深く触れたい方は読むと吉かも。
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