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宝石の国3話「メタモルフォス」



宝石の国

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 市川春子先生による漫画原作のアニメ作品。未視聴の方は急いで観ましょう。まだ3話なので間に合います。急げ!

 1話・2話とCGアニメである事を活かした目まぐるしい戦闘や演出が印象的ですが、それを経て戦闘パート薄めに人間ドラマに重きを置いた3話が素晴らしい。とにかく3話の話がしたい。

 という訳で今回は登場人(?)物の一人である、ダイヤモンドちゃんの感情と関係性を中心に、宝石の国3話「メタモルフォス」の話をします。

 

宝石の国3話「メタモルフォス」

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 3話の話をすると思わせて一旦2話「ダイヤモンド」の話へ。1・2話の脚本は大野敏哉さん、絵コンテは京極尚彦さん。女児アニメファンには馴染みの面子ではないでしょうか。

 さて、2話はサブタイトル通りダイヤモンド属を中心に展開していく回。フォスの粗雑な態度や発言を、茅野愛衣さんによるお姉さんボイスで優しく解いていくダイヤ。

 しかし、肝心の戦闘シーンでは同じダイヤモンド属のボルツに助けられ、自身の無力さとボルツへの複雑な想いを吐露。

  100点!!!!!

 全ての文節にダイヤちゃんの感情が乗せられており、最後にフォスへ委ねる乙女チックな思考回路。基本的には中性的である宝石たちの中で、ダイヤちゃんは珍しく女性らしい性格をしているキャラ設定が際立ちます。

 自身の気持ちに名前をつけてもらう事で安心感を得ようとする点や、こんな会話を恥ずかしげもなくボルツ本人の前で繰り広げるところから、宝石たちが人間とは違う倫理観を持つことが分かる。

 Bパートでは以降もダイヤとボルツ、二人のダイヤモンド属間での愛憎交じり合う関係性が描かれます。

 

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 満を持して3話「メタモルフォス」。脚本がご存知ふでやすかずゆきさん。演出は牙狼アニメなどで活躍した「武藤健司」さんが担当。今回はオリジナルパート多めなだけに良い仕事しています。

 序盤の見せ場である戦闘シーン。フォスを救出するためダイヤが前へ出すぎてしまい、またしてもボルツに助けられる。怒りつつも颯爽と駆けつけお姫様だっこでダイヤと跳んでいくボルツ。

 

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 「だから下がってろと言っただろ!」と怒鳴られ怯えるダイヤ。夕焼けを受け光る髪と反対に憂い顔を見せる。

 宝石の国アニメでは背景の夕暮れと夜の使い方が特徴的でして、原作では白だった背景に赤みが乗る事で受ける印象が全く違います。

 シリアスな空気を切り裂くように「もう何の騒ぎ~?」と呑気な内田真礼ボイスが上階から響く。

 

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 まんまと敵に飲み込まれたフォスに怒りを露わにするボルツに対し「でもフォスのお陰で敵の急所がわかったわ」と擁護するも、またもや逆鱗に触れてしまう。ここで激しく反論されるとわかりきっていても、フォスの功績を示そうと顔色をうかがう絶妙な表情が良い。

 

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 「手間のかかるヤツだ」とぼやきつつも、率先してフォスを救出するため水中へ潜るボルツの姿から、彼がただの戦闘狂でない事が描かれる。敵の残骸から出てきた暴れるカタツムリに「めっ!」と真剣に叱るダイヤちゃんがかわいい。感情がころころ変わっていき叱られていた立場のダイヤちゃんが、いつの間にか叱る側へ回っています。

 一向に見つからないフォスを心配して「フォス……」と嘆くダイヤ。言葉を投げるとビチビチ跳びはねるカタツムリの様子に、優しいダイヤちゃんはフォスが変化した姿だと思い込んでしまいます。

 

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 フォスの姿を元に戻すため東奔西走し各人を訪ねるダイヤ。「とにかく月人に攫われないなら良い」とぶっきらぼうながらも確かな優しさが垣間見えるボルツ。言いたいことだけを残し去っていくボルツの後ろ姿を、何か言いたげに見つめる間が好き。

 

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 飲み込まれる寸前にフォスが離した自身の腕を握りしめる。相手への思いやりはダイヤ側の一方通行でなくフォス側からも感じられる。優しい世界です。付け直した腕の感触を確かめるための「ぐーぱー❤ ぐーぱー❤」が性的。アドリブなんでしょうか。

 カタツムリになったフォスに「ねぇ、こんな姿になったのは僕がすっごく変わってみるのはどう? なんてアドバイスしたのも、ちょっと関係あったり……するの……かしら?」と投げかけるダイヤ。「あーん やっぱりそうよねぇ……」と続き、フォスがカタツムリになったという勘違いのみでなく、そうなった要因が自分だとまで思い込む不器用さ。固いだけでなく感情も重いダイヤモンド。単に面倒くさい女とも言う。

 

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 フォスを戻す方法を探しまわっているうちに、夕陽が沈み始め暗くなっていく。

 背景と同じくダイヤちゃんの心情に翳りが見え始め、宝石の躰と違い自由に排泄や食事を行うカタツムリを眺め「そのくらいまったく変わってしまえば、誰にどう見られてたり気にしないで、誰と比べたりもせず、嫉妬したり見栄をはったりしなくて済むのかしら」と語り始める。

  ここで重要なのが、ダイヤちゃんが既に「嫉妬」「見栄」の概念を知っていることで、2話で抱いたボルツへの感情はこの2つ以上に煩雑かつ厄介であることがわかる。

 

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 「幸せ?」

  空にはすっかり夜が訪れる。ここで原作で続く「でもまだいかないで」のセリフを削り、代わりに背景を念入りに映すことで月に照らされる浜辺を印象づけます。フォスを必要とする誰かを探すため、ダイヤちゃんはフォスとは無関係のカタツムリを抱えて夜を歩く。

 

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 場面は切り替わり、「フォスを必要とする誰か」であるシンシャへ。

 「オレが必要とされることなど無いのに……」と独り言を漏らしつつ、「キミにしかできない仕事を僕が必ず見つけてみせるから!」と訴えるフォスの声を反芻する。既に互いが互いを必要としている状態。僕もフォスに仕事を見つけて欲しい。

 見回りを続けていると草むらに光を放つ何かを発見。アイキャッチへ。

 

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 「眩しすぎるんだお前は!」、発光源は暗くて寝てしまったダイヤ。カタツムリになったフォスの姿を見せるも、「あの戦闘狂といい、ダイヤ族の考えることはわからん」と揶揄されてしまう。この幻想的な七色の光に、宝石の国を3Dアニメにした意義が凝縮されていますね。

 シンシャの嫌味も気にせず笑顔で「それがね、フォスなの」と説明を続ける図太いダイヤちゃん。ここで余裕の表情を見せるのはアニメのみ。ダイヤちゃんのおっとりさが際立つ。

 

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 立ち去るシンシャを「オレは戻す方法を知ってる、でしょ!」と引き止める。ここもアニオリ。「みんなフォスはこのままでいいって言うの。シンシャもそうなの?」と直球に訊かれ、一瞬戸惑ってしまうシンシャ。静かに流れる劇伴が両者の情動を演出。

 思わず昂ぶりフォスへの罵詈雑言を並べ「大嫌い」で締めるも、「フォスに告白でもされたの?」と返すダイヤ。ここで「大嫌い」という語彙を選択するの良いよね……。自身の気持ちは整理できなくとも、他人の感情の揺らぎには敏感です。

 ダイヤを「恋愛編重主義」扱いし反論するシンシャ。去り際にカタツムリの正体がフォスではない事と、フォスを元に戻す方法を教えてくれます。

 

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 やたらとアクロバティックな帰宅をするダイヤちゃん。ここでの疾走は全てオリジナル。逸る気持ちが速度に現れる。前期のRWBYと言い、滑らかな動きで感情を魅せてくるのは3Dアニメの本領。

 

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 身勝手な行動に怒ろうとするも、先に「方法が分かったの! フォスを助けてあげられそうなの! 戻せそうなの!」とキラキラ輝く表情に呑まれてしまう。

 「早く言って助けてやれ」

 「ありがとう、ボルツ!」

 ここでの安心した表情とカメラワークは個人的には3話一番の見どころ。

 シンシャの言った方法でフォスも復活し一段落。

 

 カタツムリになったフォスと感情を剥き出しにするシンシャを通して、2話から続く自身の思い込みの激しい乙女な感情と向き合い、二転三転していくダイヤちゃんの表情が素晴らしい。疾走シーンでの月に冴えるダイヤちゃんや、闇夜に七色の光を放つダイヤちゃんなど、とにかく美しい物を美しく描き続けている回……100点!

 

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 因みに原作1巻は今なら無料で読めます。