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今週のヤンマガ読み切りが華倫変フォロワーとして素晴らしかったので、華倫変作品と死についての話をします



イメージ・ビデオ

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 今週のヤングマガジンに、ちばてつや賞にて大賞を受賞した短編「イメージ・ビデオ」が掲載されました。作者の後藤天泉先生は17歳。まだAVすら観ることを許されない年齢でIVをテーマにした作品を投稿する男気が素晴らしい。

 本作はアオリ通り、元アイドルとファンのオタクが逃避行を始めるお話でして、これにはイリヤの空、UFOの夏」「ナルキッソスが大好きな自分もあらすじ時点で高評価。最近ですと、映画 中二病でも恋がしたい! -Take On Me-も大変良い逃避行モノでした。

ナルキッソス (MF文庫 J か 5-1)

ナルキッソス (MF文庫 J か 5-1)

 

 

 

 さて、あらすじだけでは伝わりづらいので本編を読み進めていきますと……

 

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全体的な作風に背景、ジメジメと粘りつくような陰鬱な雰囲気と、なにより淡々と展開されていく救いと綺麗事のないストーリー……これで華倫変先生を意識していなかった場合は逆に怖い。いや、華倫変先生を意識して作品を投稿してくる17歳の存在も相当凄いですが。華倫変先生も、デビューはちばてつや賞を受賞しヤングマガジンからでした。

 オタクの慰み者にされ精神を病んでしまった少女と、彼女を支えるファンであるオタクの恋物語……華倫変先生のファンなら間違いなく飛びつく一作。現代で、そしてまたヤンマガでこういった作品が読めることに感動の涙が止まりません。

 いやはや、改めて17歳とは思えない吹っ切れ方に期待しか感じません。是非、今週のヤングマガジンを手に取って、後藤先生の若さと鬱屈した感情が詰め込まれた45ページを体験してください。

 

 それはそれとして、こういった機会でもないと中々話題にあがりませんし、今回は僕の大好きな作家である華倫変先生についての話をします。

 

華倫変

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華倫変カリクラ―華倫変倶楽部 (下)」)

 華倫変先生は主に00年代前半に漫画を連載し、03年に28歳の若さにして夭逝した作家です。メンタルを病んだ女性が、どこか狂った男性と出会い、特に救われる訳でもなく、ただただしょうもない人生の様子が綴られていく作品が多い作家です。

 代表作は、短編「カリクラ―華倫変倶楽部 」「高速回線は光うさぎの夢を見るか?」に、長編「デッド・トリック! 」。今回は主に短編2つの話をしていきましょう。

 

・高速回線は光うさぎの夢をみるか?

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 華倫変作品に浸るにオススメなのが、なんと言ってもこの一冊。唯一上下巻でないというだけの理由ですが。実写背景と画面に散りばめられたモルフォ蝶で青を貴重にしたデザインから、血を連想させる赤の差し色という氏の美がこれでもかと込められた表紙。

 華倫変先生は、メガネっ子を出しておけば人気が上がると聞き、メガネっ子をヒロインにした短編を多く書くようになったそうですが、人気が上がらないどころか寧ろ低くなる傾向にあったそう。僕は先生の描くフェチズム全開なメガネっ子が大好きです。

 

 

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 注目すべきは表題作「高速回線は光うさぎの夢をみるか?」。あのKoi先生も、この作品に感銘を受けて「ご注文はうさぎですか?」のタイトルを閃いたという、いま僕が考えたエピソードはあまりにも有名。

 内容としては、当時の2ちゃんねるにて、自殺予告スレを立てたメンヘラ女がひたすら世の中を嘆き自暴自棄になっていくというお話ですが、元にした実話があるだけに、その迫力とリアリティはひとしお。

 「自殺」という二度と無い体験を餌に、匿名掲示板のオタクたちに構ってもらい続けるヒロイン。彼女の発言はどんどん過激さを帯び始め、反応してもらうためなら自らの全裸すら平然と晒していきます。何よりスレ住民の冷めたレスたちとのギャップが哀しい。

 本来ならば、自殺に際してのドラマ性や過去を描いて意味を与えていくものですが、華倫変先生の作品にそんな常識が存在するわけでなく、ただただ彼女が予告した自殺予定日に近づき続けていく……。

 動画配信も容易でSNSなどを通し簡単に注意を引ける時代だからこそ、00年代前半のインターネットに想いを馳せることができる貴重な作品。華倫変先生自身が、生前はメンタルヘルス板に常駐していたからこそ真に迫る短編です。

高速回線は光うさぎの夢を見るか? (F×COMICS)

高速回線は光うさぎの夢を見るか? (F×COMICS)

 

 

カリクラ―華倫変倶楽部

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 上記の短編集を読み、華倫変先生の世界観を理解したならば、上下巻の短編集「カリクラ―華倫変倶楽部」を読みましょう。先生、モルフォ蝶好きすぎますね。

 カリクラの面白い点として、巻中に先生自身による作品解説があり、自分の作品を指して「失敗作だ」「駄作だ」「このオチに意味はない」と反省点や瞑想した部分が赤裸々に語られていまして、その自身の評価を飾らない正直な点が愛おしく、ときおり自信作の出来に素直に喜んでいる様子などを通し、作品以上に華倫変先生自体が好きになっていく構成に。勿論、このあたりのバランスは狙っていないのが素晴らしい。

 中には「この作品で何を伝えたかったのだろう」と先生自体が疑問を抱いている短編もあり、この迷走している様子まで合わせて作品です。作者自体もわからない問題を解釈し、描きたかったのであろう何かを掴んでいく。そして、答えは誰にもわからない。

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 ただ、華倫変先生の描く異常な女性たちの儚げで幽玄な美しさは唯一無二で有る事実と、彼女たちの心情は先生だけしか理解できないという嫉妬心だけが残る。

 

・「華倫変」の完成

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 そして、下巻では度々サディスティックな異常者として何度も登場する三好一郎なる人物についての解説がなされる。

 先生の解説によると、この三好一郎という男がサド気質であること、そして先生を何度も虐めては悦に浸っていた人物であることが分かります。

 本編で登場する三好一郎も、どの短編でも女性に対し異様に暴力を振るいつつも、どこかか弱く異性からモテる一面もあるキャラクターとして描かれており、解説を読み進めていくと、先生自身も実在する三好一郎の暴力を受けつつも嫌いになれない矛盾した想いが綴られ、最終的には三好が離れてしまって寂しい、彼の激しい感情をぶつけられるのが好きだったという真の感情が吐露されます。

 数作の短編と解説を照らし合わせることで、華倫変という人物像が完成するのです。こんな美しい短編集が他にあるでしょうか? そして、華倫変先生は前述した通りの若さで亡くなり、まだご自身でも処理しきれて居なかったであろう先生の心情世界は永遠となったのです。

カリクラ―華倫変倶楽部 (上) (Ohta comics)

カリクラ―華倫変倶楽部 (上) (Ohta comics)

 

 

おわりに

 という訳で、華倫変先生の作品が大好きという話でした。先生が今も現役で漫画家を続けていた場合、この混沌としたインターネット社会をどう描いていたでしょう?

 それにしても、「イメージ・ビデオ」のような意欲作に大賞を贈った講談社は凄い。今後も華倫変フォロワーのみでなく、サガノヘルマーフォロワーや、士郎正宗フォロワーも発掘し、ヤングマガジンらしさを貫いて欲しいものです。雅様がただ水を飲みに来て帰った今週の彼岸島には、中々パワーを感じました。

  後藤先生のご活躍を期待しております。