ぼくたちの美少女ゲームクロニクル2
先日、こちらの本を購入しました。「ぼくたちの美少女ゲームクロニクル2」です。
いきなり本題と逸れて何だという感じですが、後に繋がるので興味のない方は読み飛ばして下さい。
本書の内容を簡単に説明すると、95~05年までのアダルトゲームの歴史を紹介していくという、アダルトゲーム業界が斜陽になった昨今で、非常に意欲的かつニッチな需要の一冊となっています。
巷に溢れる「エロゲー名言集」などの安っぽい本と違い、ちゃんとエロゲーへの愛が溢れるライターさんが、丹精込めて一作一作レビューしていくので、エロゲーマーには堪らない本です。因みに「エロゲー名言集」的な本は、基本的にKey作品やType-moon関係の話しか載っていないので、読むだけ損です。ちょっとエロゲ好きな中高生に話聞いたほうがマシなレベル。
似たような主旨の本に、「パソコン美少女ゲーム歴史大全1982‐2000 」があります。今はプレ値になってしまっていますが(発売日が2000年ですし)、ランスシリーズを初代から解説していたり、当時の「こみっくパーティー」がどれだけ革新的な作品だったかなど、本当にエロゲーに青春を捧げていないと書けない内容がてんこ盛りなので、1万出してでも読む価値がある本です。アリスソフトファンクラブの元会員(要はただのユーザー)によるアリス語りコーナーなど、まずこの本以外には用意されないでしょう。
「美少女ゲームクロニクル2」というえっちなゲームの歴史的な本が今日出る事で思い出したのですが、昔「美少女ゲーム歴史大全」(今は入手困難)という本があり、鬼畜王以前のランスがどれだけ鬼畜で抜けるかや、きゃんバニのブスなヒロインの思い出など、書き手の愛と性癖が色濃く出てくる名著でした
— にゃるら (@nyalra) July 27, 2016
話を「美少女ゲームクロニクル2」に戻します。
この本の内容はこんな感じです。
作品の紹介で派生作品まで載っており、「行殺!スピリッツ」や「暗黒SNOW」の話する本商業では初めて読みましたし、情報の濃さでは大満足です(「おでかけマルチ」はあっても「既知街」がないのは哀しいですね)。
素晴らしい。ある程度アダルトゲーム知識に自信がある読者でも、この本の全てを理解している方は一握りではないでしょうか?
全く関係ないですが、コレは今話題の自撮り加工アプリ「SNOW」で、押入れにあった「SNOW」を撮影した写真です。
さて、ここからが本題です。
20年前のテキストサイトの筆者と、その読者が2016年にツイッターで巡りあった奇跡の話
・ておくれさん
まぁこんな話題誰も反応しないだろうとツイートしていたのですが、唯一リプライしてくれたフォロワーが「ておくれ」さんです。
@nyalra でも「暗黒SNOW」は内容的に肩透かしでしたよね(うろ覚え)。「悪夢」みたいなノリを想像してたのに、なんか大分クソだった気がします。それはそうと、「美少女ゲームクロニクル」は興味深いんで近いうち探しますね
— ておくれ (@k1ntAma) 2016年7月29日
エロゲーの話する度にリプライ飛ばしてくれるので、ておくれさんのホームはちょくちょく覗いていたのですが、そこで何となく文章に既視感を覚えます。
「この人、かなり昔に僕が読んでいた97年にあったテキストサイトの筆者なのでは……?」
まさかそんな偶然ないだろうと、テキストサイトとておくれさんのツイートを必死に照らし合わせていくのですが、どうもエロゲの感想が一致していく。
約20年に渡って「Kanonで泣いてるオタクはダサすぎ」という主張をし続けている彼に、この人本当に寛大な心への成長というか、自分の意見を曲げないオタクなんだな(かなり褒めています)と、哀しみと尊敬が混じった感情に包まれていきます。
例えばエロゲーマーには、誰しも「key作品で泣くオタクダサっ笑」という期間があります。僕も中学の頃CLANNADアニメ放送時に、クラス中のオタクが「家族愛サイコ~!」と叫んでいるのを見て、フェイタンばりに「家族? なにそれ?」と返したりもしました。
しかし、ておくれさんは泣きゲー全盛期にその主張を声高に続け(実際別のテキストサイトの管理人と論争の日々だったそう)、しかも2016年になった今も全く同じことをツイッターに書き込んでいる訳です。こう言ってはなんですが、20年近く(正しくは17年)あれば普通人は変わります。それが全く変わっていない。
もう一人この時代の古参オタクであるワイワイちゃんというフォロワーがいまして、彼もておくれさんのサイトの大ファン(実際彼も泣きゲーは全く興味ないので、かなり影響を受けている)ということで、二人で検証を続けていくと、驚くほど内容が一致していく。疑念は殆ど確信へ変わります。
(こちらはておくれさんに影響された、ワイワイちゃんによるLibido7レビュー記事です)
よくエロゲの話したらリプライしてくる古参っぽいフォロワーの方に、「テキストサイト黎明期の98年に、ToHeartや同級生2のレビュー書いてた人ですよね! 昔読みました!」って言っていいのかな……。もう20年近く前の話だし、絶対本人も誰も知らないと思って油断してるんだよな……
— にゃるら (@nyalra) July 29, 2016
僕はフォロワーの方が、約20年前にテキストサイトを立ち上げて「マニアがToHeartを東鳩と略しているのが気に喰わねえ!」とオタク全開な文章を書き込んでいるのを、一方的に知っているんですよ。向こうから見たら恐怖以外の何者でもないし、ディアボロの気分でしょうね
— にゃるら (@nyalra) July 29, 2016
いや素晴らしい。まだオタクを「マニア」と呼んでいるのも素晴らしい。当時ならではな表現の宝庫です。「同級生2は世界遺産級のゲームだから、友達中に押し付けてきた!」的な文章も、ておくれさんの青春時代を想像してキュンキュンきますね。
そして感動のリプライがきます。
@nyalra いまリアルに「マジかよ……マジかよ……」ってなってるんですが、え、どうやって当てました? 文章とか雰囲気とかでわかるもんなんですか?
— ておくれ (@k1ntAma) 2016年7月29日
長くインターネットをやってきたし、数々のエロゲーオタクを見てきたが、よりにもよって15年前に運営してたエロゲー系のテキストサイトをピンポイントで当ててきて「めっちゃておくれさんっぽいなと思ってました」等と分析されたのは初めての経験だし、発作的に窓から飛び降りたくなってきた
— ておくれ (@k1ntAma) 2016年7月29日
人は20年前の自分が書いた文章を知る者と出会うと、激しく動揺するという、世にも珍しい証明の瞬間です。僕だって、中学の頃に書いたローゼンメイデンの百合SS(掲示板に投稿した事がある)の読者が居たら泣き出してしまうでしょう。
奇しくも彼が苦言を呈した「Kanon」で言えば、「起こらないから奇跡って言うんですよ」が実際に起きた状態です。
15年前と書かれていますが、サイト自体は97年からありますね。恐らく僕が指摘するまで記憶の彼方へ消し去っていたはず。本人も曖昧になっているのでしょう。
まず、ておくれさんの場合「長くインターネットをやってきた」の重みが違います。「ちゆ12歳」以前から、面白おかしくツッコミを入れていく方向でエロゲーをレビューしていた方ですので、そりゃもう当時のオタクたちに多大な影響を与えている筈。現に僕やワイワイちゃんも、ておくれさんが軽い気持ちでブログに書いた「和姦とか信じられない! オタクなら好き好き大好き! をプレイしてヒロインを監禁しろ!」という文章を信じて(本人も忘れているでしょうが)、陵辱ゲーを好んで遊んできたわけですから。
・当時のオタクテキストたち
00年代以前のインターネット事情として、桃井はるこさんの「バーチャリアンコ☆桃井はるこ通信」は資料性が高いです。
この頃の桃井はるこさんは、ドリームキャストを購入し、インターネットライフを満喫している様子。「インターネットが本当に『みんなのもの』になってゆく」という一文に先見の明が見えます。
ゲームボーイやときメモ、他に極一部の人間たちにインターネットが膾炙し始めた時代です。桃井はるこさんがインターネットの光のテキストだとしたら、闇の存在であるておくれさんは、当時どのような文章を書き込んでいたかと覗いてみますと、回収騒ぎになった問題作である「コ・コ・ロ…」をプレイし、「肉親や同姓ですら犯して続けていく主人公ってなんやねん!」と、開発メーカーであるアアルにブチ切れています。
時は進んで2001年。既に「ちゆ12歳」「Numeri」「Black徒然草」なども登場し、インターネットの人間たちが、あらゆる面で目立ち始めた時代ですが、その時のておくれさんはと言いますと、「Piaキャロットへようこそ!!3」をプレイし、メインヒロインにまともなエロシーンが無いことにブチ切れている最中です。「エロがないならときメモと同じだろ!」と怒りを露わにし、コンシューマーに移植された純愛ゲーの存在を真っ向から否定しているのがカッコいい。本当に女の子のえっちなシーンが見たいんだな、という情熱が伝わります。
残念ながら、01年でておくれさんのサイト更新は止まっていたので、これ以上は遡れなかったのですが、当時の手垢がついていないエロゲの感想として、物凄く資料性と貴重性の高いブログです。エロゲーマーの端くれとしてコ・コ・ロの底から尊敬しています。もしかしたら、僕はておくれさんが居なかった場合、今頃和姦ゲー大好きに成長していた可能性があるのですから……。
発売当時の「終ノ空」「誰彼」「君のぞ」あたりの生の感想が描き込まれたサイトなんですから、僕のブログなんかより何倍も資料的価値があるでしょうし、絶対本人は嫌がるだろうけど、TLに紹介したいくらいですよ
— にゃるら (@nyalra) July 29, 2016
・終わりに
ておくれさんは今でも、ヤマグチノボルさんに対し、「ゼロの使い魔のヤマグチノボル」でなく、「ヘクサゴン(当時のテキストサイト)のヤマグチノボル」扱いしているので、彼のオタクとしての歴史と意志の強さを感じさせます。
ヤマグチノボル、いまのオタクにとっては「ゼロ魔の作者でなんかキモい文章書いてる人」って印象が強そうだけど、ほんの20年前の彼は、テキストサイト界に燦然と輝く一等星ってくらいカリスマ的な存在で、俺たちの"ヒーロー"だったんですよ
— ておくれ (@k1ntAma) 2016年7月30日
今後も変わらずオタクたちの基礎を作った存在として、ツイッターで当時の想い出などを語っていって欲しいと思ったのでした。 あと、こんな記事の掲載を許可してくれてありがとうございます。今回の記事のサムネイル画像は、当時のておくれさんがプレイしていた作品かつ、僕も(その影響で)好きな「Oh!きつねさま」をチョイスしました。
因みに、最近のちゆ12歳では、ブックオフの買い取り査定にて「ワンピースが30円くらいなのに対し、バイオレンスジャックが100円で、デビルマンレディーが80円なのは間違っている気がする」など、相変わらずオタク心を擽るどうでもいい話を続けていて、コチラも流石だなと感じました。
※追記
今回の件でカトゆーさんが興味を示していたので、軽く訊いてみたところ、矢張りておくれさんのサイトをご存知だったようで、懐かしんでいました。良い話です。
これで僕が大好きだったテキストサイトの筆者が、現在何をしてるか大体把握できた訳ですが、矢張りインターネットのオタクの基礎を作ってきただけあって、あの人達の文章は今読んでも色褪せない魅力がありますね。これからも斜に構えたオタクの先駆者として、ひっそりでも活動し続けて欲しい
— にゃるら (@nyalra) July 29, 2016