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僕がフォロワーから『お香』を貰った時の話

日記


 この記事は、僕が去年ツイッターに投稿した文章をブログ用に書きなおしたモノです。

 

 ※はじめに、この内容はあくまでフィクションであり、文中の表現も誇張されたものであることをご了承下さい。

 



 ある悪いフォロワーの厚意(矛盾)で、『お香』を譲って貰えることなりました。
 今回、僕が『お香』を試そうと考えたのは、決して興味本位や話題作りが目的ではありません。
 幼い頃から惹かれた、トリップした自我の風景にどうしても触れてみたくて、二度と無い機会を逃す選択肢がなかったのです。
 僕はクトゥルフ神話の狂気の世界に憧れて「にゃるら」などと名乗る人でしたから、『お香』によりトリップした先から戻れなくなるよりも、意外と大したことない効き目だったらと考える方に恐怖していました。
 前置きはここまでにします。まず、場面は彼と駅で待ち合わせしている時にまで遡ります。

 休日の賑やかさを楽しむ街の喧騒が消え始め、太陽が沈み始めた夕暮れ過ぎに彼は来ました。
 彼の第一印象は、バーやクラブで遊んでいそうな茶髪の典型的な大学生でした。正味、もっと怪しい人物が来るのだと身構えていたので、拍子抜けしたと共に、逆に平凡な外見故の恐怖を感じていました。
 その恐怖は直ぐに確信に変わります。彼は軽い自己紹介の後、直ぐさま『お香』の説明に入り、それぞれの『お香』の効能や感想を語りながら、自宅へ向け歩き出します。話が早いのは助かるのですが、多少は世間話を混じえてから、本題に入ると思っていたので、呆気にとられ二の句が継げませんでした。
 オフ会で、インターネットの人に会う場合、初見のインパクト(ハッタリともいう)が何より重要だと考えていた僕は、この時点で彼に完全敗北し、悔しさすら感じていました。
 『お香』の説明を受けながら、不審な二人組は取引現場である彼のマンションへと到着します。
 彼の部屋は、それはもうサイケデリックでした。
 玄関を過ぎ、早速部屋へと入ると、まず壁に並べられた曰くありげなお面が目に入り、視線を下げると机の上に色とりどりの『お香』とタバコが散りばめられています。

 極めつけはゴキブリやトカゲ、蜘蛛に蛇など、グロテスクなペットがモゾモゾと音を立て、ゲージの中を忙しく這い廻っています。
 僕は事前に彼の趣味を聞かされていたのでそこまで動揺しなかったのですが、何も知らない一般人がこの部屋の異質な空気に触れると、間違いなく気を呑まれるでしょう。
 彼の自慢のペットたちの話を聞いていると、「準備ができた」と、件の『お香』を渡してくれました。
 他人の部屋ということや、初めての経験ということもあり、少量に調合してもらったソレは、彼曰くお試し程度で軽い物らしいのですが、僕には十二分に怖気を感じる重みがありました。
 しかし、ここで弱気になるわけにはいきません。思い切りが良い事だけがネットの住民の取り柄なので、間髪入れずグッと体内へと入れます。
 諸事情で内容は詳しく説明できないのですが、僕が初心者で作法が下手ということもあり、『お香』は効いているのか微妙なラインでした。少し高揚している感覚はありましたが、気分的な問題の範疇だと思います。意識はしっかり保たれています。
 取り敢えず、この場での僕の目的は達成です。元より僕は本格的にはキメるときは独りで使うつもりでした。『お香』で引き出された自意識を、人前で晒す勇気などさらさらなかったのです。
 彼から初心者用にと調合された『お香』と道具、方法と心得などを教えてもらい、その後は軽くキマった状態のまま、各々の好みな凌辱ゲーの話で盛り上がり慎ましやかに鍋をつついたのですが、その部分は割愛させて頂きます。(※余談ですが、僕は清楚でメスとしての快感など想像だにしたことのないお嬢様が、汚い下衆により快楽堕ちさせられ、昼夜問わず姦淫漬けになるシチュが好きです。)

 

 鍋と『お香』で暖まった身体で彼の異質な空間を後にし、数時間後に”真理”に触れ恍惚としている自分の姿に想いを馳せながら、静まり返った夜の街を独り帰ります。
 帰宅すると、台所に説明された通りに『お香』を用意し、早速準備にかかります。彼の部屋で使用したお試し量から約三倍です。使用量の目安に教えられた量からわざと多めに調合します。折角の冒険で、中途半端にキマるのがイヤだったのです。ある意味、この時点で狂気に魅入られた僕の状態は、まさしくSAN値ピンチと言っても過言ではありません。
 そして、遂に完成した『お香』を自分の体内へと運びます。幼い頃夢見た不思議の国への案内役は、白いウサギではなく、妖しく光る黄金色の葉っぱだったのです。
 ここから先は大味な説明しかできません。まず、後頭部が異様に冷たく感じられて一瞬でこれは危険な状態だと、頭部を這いずるナニかを脳で理解します。
 それからは、どんどん堕ちていきます。思考能力が落ちるという意味ではありません。むしろ思考回路はおぞましい程にクリアで高速に回転し始めます。ただ、精神と肉体に名状しがたい重みがのしかかり、さっきまで健常だった身体が床へと落ちていくのです。
 完全に床に蹲り、動けなくなると、急激に睡魔に襲われ、瞼が開かなくなります。
 瞼の裏では、ぐわんぐわんと闇の中を何かが妖しく廻っています。既に夢か現か判断つかなくなった僕は、その廻る何かを必死に掴みとります。手のひらの中に収まった何かは、まず光となり、それから棒状の物体へと変化していきます。
 僅かな光が残るその棒状の物体は、銀色の鍵でした。僕は瞬時に理解します。これは、門の鍵です。僕はこの銀の鍵を使い銀の門を越え、未知なるカダスへ足を踏み入れるのです。
 気づけば、銀の門は目の前にありました。この時も頭では幻覚だと理解しているし、現実の僕は台所に蹲っている状態なのを知っています。しかし、幻覚の僕は止まらず、銀の門をくぐっていきます。身体から自我だけが離れていきます。
 しかし、門の先には何もありません。本当に何もない、空虚な闇です。夢にまで見た狂気の世界はなく、代わりに僕の変哲もない身体がぽつんと伽藍堂な闇に浮かんでいます。
 イマジネーションが、『お香』が足りない。もっと増やさないといけない。しかし、身体は起き上がるどころか、幻覚内から抜け出すことができません。意識に死があるとしたら、この世界が最も近いだろうな、とふと考えたりしました。
 その時、闇の中がぽつりぽつりと光始めます。星です。星は瞬く間に広がり、圧迫的だった黒の視界に奥行きを与えます。宇宙です。いつの間にか僕の躰は宇宙空間のど真ん中に漂っていました。
 僕はその壮大な景色にただ見惚れていました。しかし、眺めているとなんとその大量の星たちが、僕を目掛けて光速で襲ってきます。それは近くで見ると理解ったのですが、一つ一つが数字なのです。おびただしい数字が迫ってきて、僕をすっかり覆ってしまいました。
 『お香』によって空っぽになった僕の頭に、夥しい量の数字が雪崩れ込み、全能感が湧きあがってきます。この空間では、今の自分は神です。宇宙を支配し、真理に触れています。全ての摂理を理解し、全ての事象を予測できるのです。
 思考はどんどん加速していきます。自我のみが暴走し、この世の謎を独自のロジカルで紐解いていきます。なぜ今までの自分はこんな簡単な事すら理解できなかったのだろうと、呆れすら感じさせてきます。
 その時です。『お香』を入れた瞬間に感じた時と同じ冷たさが全身に広がり、総毛立ちます。このままでは何かに呑まれると、必死に瞼を開き、重い身体を引きずって、どうにか台所から自室へ移動し、ソファで横になりました。
 
 副作用による軽いバッド状態なのでしょう。しかし、愚かな僕はまだ『お香』で開いた先を見足りないのです。彼から説明された効き目は一時間です。既に時計の針を判断する気力はなかったのですが、体感でまだ少しチャンスはあるの感じました。
 というより、ソファ越しにあの『お香』の感覚が無慈悲にも襲ってくるのです。見上げた自室の天井がどんどん低く迫ってきます。降りてきた天井は僕をすり抜け、部屋は吹き抜けの状態になり、ソファから夜空が眺められるようになります。
 その風景はまさしく終ノ空です。『お香』の効き目も残り僅かでした。戻り始めた超自我が意識を振り絞り創った終着点なのです。見た目はただの夜空なのですが、冷たく張り詰めた空気と孤独感が、冒涜的な体験の終わりを予感させます。
 ここから銀河鉄道に乗って、宙を旅することもできますし、そのまま飛び降りて空へ還るのも自由なのです。しかしこれ以上進むには、まだ『お香』が足りないと感覚が教えてくれます。夢が覚める直前の世界なのです。
 僕は不思議な満足感に包まれ、そのままソファの上で瞼を閉じ、今度こそ意識を深い闇へと落としました。
 それからはツイッターに書き込んだ通り、帰ってきた同居人に倒れていた理由を説明し、次は興味をもった同居人が『お香』を試してしまい、また色々と大変な目にあうのですが。

 冒頭に書いた通り、この物語はあくまでフィクションです。僕に『お香』を渡した悪いフォロワーも、僕の不思議な体験も全て夢や幻です。ただ、僕の机の奥にはその『お香』の残りが確かに入っているのです。

 

かゆらぎ 白檀40本入 香立付

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